Rörstrand


ロールストランドの歴史
-スウェーデンの気高き陶器メーカー


ストックホルムで創業したロールストランド

    ロールストランドは王室御用達の窯として1726年ストックホルムで創業しました。(現在ではマイセンに次いでヨーロッパで2番目に古い陶器メーカーとなっています。) 18世紀初頭のスウェーデンの強い重商主義(貿易を通じて国を富ませようとする思想)の流れの一環として始まり、スウェーデン経済を立て直す一役を担うことを期待されて、裕福な貴族と商人からなる組合から支援を受けたドイツ人の陶磁器職人であるヨハン・ウルフ(Johann Wolff)が立ち上げました。

Painting of the Rörstrand factory in the 1850s. Unknown artist.
1850年代のロールストランドの工場を描いたもの。無名の画家。

ファイアンス製品

    ロールストランドは酸化スズの釉薬を利用したファイアンス製品を作りはじめました。装飾はコバルトブルーの花柄が多く描かれましたが、これらは中国やオランダの陶器に影響を受けたものでした。この装飾は焼成前に手で描かれ、その後澄んだ釉薬でコーティングし、最後に焼成するという作業で行われましたが、製品は壊れやすく、すぐにダメージを受けやすいものでした。しかし、徐々に富裕層に受け入れられるようになり、これまでの金属製のテーブルウェアが置き換わられるようになっていったのです。


Rörstrand faience plate from the 18th century.

1840年代のグスタフスベリの陶器シリーズ“Ecclesial”

Rörstrand faience plate from the 18th century.

18世紀のロールストランドのファイアンス製のお皿

スウェーデンスタイルの柄

  1740年代、ロールストランドは独自のスタイルと柄を考案しましたが、それに特に貢献したのは、ジーンエリック・レン(Jean-Erik Rehn ,1717-1793)でした。この丸みをふんだんに用いた、想像力豊かなスタイルは人々に愛され、30年にもわたってベストセラー作品となりました。1758年に他の競合企業が現れた際には、差別化を図るため、ロールストランドは製作場所や製作年を入れたブランドのスタンプを取り入れました。スウェーデンの各主要都市では、何年にも渡ってロールストランドの製品がとぶように売れていったのです。


Replica of a terrin with the Rehnska pattern from mid 18th century.

18世紀中頃のRehnska柄のチュリーン(スープ皿)のレプリカ

Jean-Erik Rehn, the successful 18th century designer of Rörstrand

ロールストランドで18世紀に活躍したジーンエリック・レン

ロココ調の影響

    18世紀の後半頃、ロールストランドのデザイナーたちはロココ調や自然界から多大なインスピレーションを受けました。当時のデザインされた作品には、草木やフルーツ、動物といったものが描かれましたが、それらは数種類の色が使われ、これまでのブルー単色のものと一線を画すものでした。また陶器の素材としては、ファイアンス製に代わりアースンウェア(低温で焼き上げた目の粗い陶磁器類)が台頭します。この当時、ロールストランドは初めて食器類一式をシリーズ化した”Sepia”シリーズを発表します。


Replica of a terrin with Rokoko style from the late 18th century

18世紀後半のロココ調スタイルのチュリーン(スープ皿)のレプリカ

Dish from the Sepia series, the first complete dinner service from Rörstrand

ロールストランド初の食器類一式の”Sepia”シリーズのお皿

ロールストランドの近代化

 19世紀初頭、蒸気エンジンを代表する技術的な進歩が、近代化の波として押し寄せてきました。装飾においても例外ではなく、手作業に加え、銅板も使われるようになっていきます。食器類一式のシリーズはより普及し、シリーズを構成する製品も細分化されますます増えていきました。当時のシリーズである“Svart Sverige”や “Willow”はそれらを代表するものであり、イギリスの田舎風景やはたまた異国情緒漂う描写が見られるのが印象的です。


he Rörstrand decors ”Svart Sverige

ロールストランドが装飾した“Svart Sverige”シリーズ

”Willow” from the 19th century

19世紀に制作された“Willow”

磁器の製造

 19世紀の後半、ロールストランドはボーンチャイナ(骨灰磁器)と長石磁器の生産をスタートさせます。会社は繁栄を極め、スウェーデンの10大企業の一つにまで成長しました。ロールストランドは1873年にフィンランドでアラビアを立ち上げますが、これは急成長するロシア市場への輸出の際にかかる高い関税を回避するためでした。1880年代、特徴的なスウェーデンのシンボルである三つの王冠の絵柄が、ロールストランドのマークとして製品に付けられるようになりました。当時はスウェーデンにおいて”ダイニング時代”と呼ばれたほどで、装飾されたダイニングルームや立派な晩餐のサービスを行うことが各家庭において箔があることとみなされました。このときロールストランドの作品で人気があったもののシリーズの一つに、東洋の風景を描いた“Flytande blatt”シリーズがあげられます。


Dinner services ”Flytande blått” from the late 19th century

19世紀後半の“Flytande blatt”シリーズ

The Rörstrand mark with the three crowns from the same era

三つの王冠の絵柄を描いたロールストランドのマーク

アール・ヌーヴォー期とアルフ・ヴァランダー

    1900年の変わり目の時期には、ロールストランドはそのアール・ヌーヴォー調のスタイルで世界中の展示会を成功に収めました。そしてより新しい技術や高い審美性を追い求め、デザイナーを次々と採用していきました。その中でも、アルフ・ヴァランダー(Alf Wallander ,1862-1914)は、当時のロールストランドでデザイナーのリーダーを務め、彼のその作品と革新的なテーブルウェアで、国際的にも認識されるようになりました。1926年、ロールストランドはストックホルムからヨーテボリに拠点を移し、またその数年後、リードヒェーピングに移りました。


Alf Wallander, artistic leader at Rörstrand from 1900

1900年頃ロールストランドで活躍したデザイナーのリーダー、アルフ・ヴァランダー

Wallander vase from the early 1900s in the Art Nouveau style

1900年代初期のアール・ヌーヴォー調のヴァランダーの花瓶

ロールストランドの偉大な女性

ロールストランドのルイーズ・エーデルボルグ(Louise Adelborg ,1885-1971)が”国家のおもてなし”として表現した1930年のストックホルムの展示会は今でも伝説的なものとして語られています。ハシグロヒタキという鳥をモチーフにした優雅なおもてなしのテーブルウェアは、後に“スウェーデンの優美”と呼ばれ、現在でもその作品は生産されています。エーデルボルグは様々な装飾パターンを1915年から1971年にかけて製作し、人々から敬意をもって、”ロールストランドの偉大な女性”とまで呼ばれるようになりました。


Louise Adelborg inspecting her delicate design

自身の繊細なデザインを確認するルイーズ・エーデルボルグ

Parts of the national service”Swedish grace” from 1930

1930年の“スウェーデンの優美”と呼ばれた作品の一部

“Ostindia”シリーズの成功

 1932年、ロールストランドは“Ostindia”シリーズを発表します。(これは後に、スウェーデンにおいて”今世紀のシリーズ”との称号を得るまでになりました)このシリーズは、1746年に中国からの帰路の途中で沈んでしまった貨物船”ヨーテボリ”の磁器の破片をモチーフにしており、その後初期デザインの優雅さを保ったまま、幾度に渡ってデザインが更新されました。


Rörstrand’s dinner service ”Ostindia” from 1932

1932年のロールストランドの”Ostindia”シリーズ

炻器とグンナー・ニールンド

グンナー・ニールンド(Gunnar Nylund ,1904-1997)は1932年にデザイナーのリーダーとしてロールストランドに入りました。彼が入ったことで、卓越した品質の炻器の作品の時代を迎えることとなりました。炻器の花瓶や器は、モダンなフォルムとマット調で長石を利用した釉薬で製作され、今日でも世界中のコレクターが追い求めて止まないものとなっています。


Gunnar Nylund inspecting a vase

花瓶をチェックするグンナー・ニールンド

Slender stonware vase with feldspar glaze from the 1950s

1950年代に長石を利用した釉薬で製作した花瓶

カールハリー・スタルハーネの完璧な花瓶

    カールハリー・スタルハーネ(Carl-Harry Stalhane ,1920-1990)は1938年ロールストランドに入社し、ニールンドとともに働く仲間として陶磁器の装飾を行いました。1940年代中盤、スタルハーネは彼独自の陶器を作り始め、とある雑誌が”円柱を模し、スレンダーな首元と、桃を思わせるつるっとした表面”とスタルハーネの作品を称賛するほど、目を見張るものとなりました。1958年、ニールンドに代わり、スタルハーネはロールストランドのデザイナーのリーダーとなります。


Carl-Harry Stålhane

カールハリー・スタルハーネ

Stream lined vase with glossy purple glaze from the 1950s

1950年代の艶のある紫の釉薬を用いた流線形の花瓶

Bla eld(青い炎)シリーズとヘルサ・ベングトソン

 1941年、ヘルサ・ベングトソン(Hertha Bengtson ,1917-1993)は作品を装飾するメンバーとしてロールストランドに入社しましたが、彼女の興味はデザインのほうに向かっていきました。それは単に仲間のデザイナーに影響を受けたためというわけではなく、彼女のなかで強く表現したいものが沸き起こり、陶器をデザインしたいという情熱が彼女をその方向へ向かわせたのです。1950年にBla eld(青い炎)シリーズが発表されると、スウェーデンおよび海外でもたちまち人気となり、大きな売り上げをあげました。これによりヘルサ・ベングトソンは日々使う日用品は芸術的な表現の延長であることを証明したのです。


Blue fire

1950年発表のBla eld(青い炎)シリーズ

Hertha Bengtson

1950年代のヘルサ・ベングトソン

陶器の母、マリアンヌ・ウェストマン

 ロールストランドは、独自の、また快活なデザインのテーブルウェアを1950年代および1960年代に発展させていきます。その当時のデザインを牽引していたのがマリアンヌ・ウェストマン(Marianne Westman ,1928-2017)で、彼女のシリーズである”Mon Amie”、“Picknick”、”Red Top”といったテーブルウェアがこの頃のロールストランドの売り上げの半分以上を占めていました。彼女のシリーズの成功により、仕事仲間からは“陶器の母”と呼ばれるまでになりました。


Mon Amie

成功を収めたMon Amieシリーズの作品たち

Marianne Westman in the late 1950s

1950年代後半のマリアンヌ・ウェストマン

インガー・パーソン - ポップの女王

  1960年代後半、ポピュラーカルチャーがロールストランドのデザイナーたちに影響を与え、それらは構造上のフォルムとビビッドな色の釉薬という形で作品に表現されるようになりました。もともと経営陣はただ一つの色でシリーズを製作するのを好んでいましたが、インガー・パーソン(Inger Persson)は自身の主張を曲げず、6種類の色を利用した釉でシリーズを展開しました。


Parts of the ”Pop” series from 1968

1968年の”Pop”シリーズの一部

 Inger Persson at the throwing wheel

ろくろを使うインガー・パーソン

厳しい時代

 1970年代はロールストランドにとって国際的な競争が激しくなっていくなか、厳しい時代となりました。ロールストランドは正社員として雇っていたデザイナーを手放し、フリーランスのデザイナーに頼ることになったのです。この時代でもシグネ・ペーション・メリン(Signe Persson-Melin)のティーポットや、ピア・トルネル(Pia Tornell)のすじ雲の花瓶といった素晴らしいデザインの作品が生まれた時期はあったものの、経済状況は改善しませんでした。2005年、ロールストランドはとうとうリードヒェーピングにある工場を閉鎖し、スウェーデンで300年続いた生産の歴史に幕を閉じました。ロールストランドは現在、アラビアやイッタラといった企業と同様、フィンランドのフィスカースグループの傘下に入っています。


Pia Törnell's Cirrus

1990年代のピア・トルネルのすじ雲の花瓶

Signe Persson-Melin’s teapot

1980年代のシグネ・ペーション・メリンのティーポット

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